虹ヶ咲アニメ 「夢」にも色々あるから

 あまりに衝撃の大きい11話でした。『ラブライブ!』シリーズにおいて少女たちのすれ違いが描かれることは幾度もありましたが、複数話を使ってここまで二者関係にスポットを当てることは無かったはずです。また、脚本はもとより表情の見せ方や暗喩の使い方といった演出にも『やがて君になる』等の近年の百合アニメの文法が見て取れました。

 思えば「ラブライブ!」の無印1期が放送された当時は「カップリングが9C2通りできてすごい!」と無邪気に喜んでいた私ですが、今回「天下の『ラブライブ!』シリーズでここまでストレートにやるのか…」という驚きは非常に大きく、今週は色々手につかないまま「解決編」(になってほしい)12話の放送日を迎えてしまいました。

 本当は12話を受け止めるにあたって色々な観点から整理しておきたかったのですが、あまりに論点が多くて手が回らなかったので、ゆうぽむの夢のかたちの違いに絞って整理を試みました。

 

 2人のスタート地点は1話で見たせつ菜のライブでした。せつ菜のライブを見て「すっごくときめいちゃった」侑は、深夜まで動画を漁って寝不足になってしまうほどスクールアイドルにのめりこみ、翌日すぐ同好会の部室を探すという積極的な行動に出ます。1話終盤には、歩夢の方もスクールアイドルに興味を持っていたことが明らかになり、挿入歌「Dream with You」を歌って夢への一歩を踏み出します。

 ふたりで…ふたりで始めようよ、侑ちゃん! 私も見てたの…動画。スクールアイドルの。せつ菜さんのだけじゃなくて、たくさん。本当にすごいと思ったよ、自分の気持ちをあんなにまっすぐ伝えられるなんて。スクールアイドルって本当にすごい! 私もあんなふうにできたら、なんて素敵だろうって!

(中略)

 私、好きなの! ピンクとか可愛い服だって、今でも大好きだし着てみたいって思う! 自分に素直になりたい。だから見ててほしい。私は、スクールアイドルやってみたい!

 スクスタでの、「あなた」に誘われてスクールアイドルを始めた歩夢と違い、能動的に侑の手を引く歩夢の力強さに感動を覚えたものです。この時は。ここで語られている歩夢のビジョンは、スクールアイドル活動を通じて自分の気持ちを素直に表現できる人間になることです。これを歩夢の動機(1)としましょう。

 次に、上に引用した会話から少し時間を巻き戻すと、最後にスクールアイドルの話をしたとき、侑はせつ菜を探すことを諦め、こう呟いています。

 やっぱり難しいのかな…夢、追いかけるのって。(中略)自分の夢はまだ、無いけどさ。夢を追いかけてる人を応援できたら、私も何かが始まる…そんな気がしたんだけどな

 歩夢が侑に「スクールアイドルやってみたい!」と伝えたのは、上記発言を受けてのものであり、歩夢がスクールアイドルを始めることは、侑の言う「夢を追いかけてる人を応援」したいという気持ちを叶えることになります。これが歩夢の動機(2)です。2話でのかすみとの会話で、侑の「マネージャー志望なんだ、歩夢を応援したくて」という発言に歩夢は笑顔で応じており、「夢を追いかけてる人を応援」できていることを素直に喜ぶ気持ちが表れているように思います。

 最後の、そして最大の動機は「侑と一緒にいられること」です。もともと侑と歩夢は2年生になったら予備校に通うつもりでした。1話を見る限り、ふたりは放課後にいつも一緒に遊んでいるようですが、予備校に通い始めたら当然今までよりも一緒にいられる時間は少なくなりますし、ふたりで部活に参加した方が一緒にいる時間は長く取れます*1。10話での「ふたりで予備校に行くはずだったけど、こうして一緒にいる」という発言からも、一緒の時間が維持されていることへの嬉しさが窺えます。極めつけは次の台詞です。

 私の夢を一緒に見てくれる?

 もちろん!いつだって私は歩夢の隣にいるよ

 この侑の言葉が無ければ、歩夢がスクールアイドルを始めることは無かったでしょう。簡潔にまとめると、歩夢がスクールアイドルを始めた動機は以下の3点に集約されます。

 

(1)自分のやりたいことを叶えられる
(2)侑のやりたいことを叶えられる
(3)侑と一緒にいられる


 言葉に表れていたのは(1)だけですが、上記(1)~(3)をひっくるめて叶えることが歩夢にとっての「夢」であると考えられます。侑と一緒に活動し、侑に応援してもらいながら一歩一歩成長できる「状態」こそ、歩夢が思い描いていた「夢」だったのでしょう。そう考えると、スクールアイドルになった時点で、ある程度夢は叶ってしまったと言えましょう*2

 歩夢の認識としては1話の「もちろん!いつだって私は歩夢の隣にいるよ」は自分と同じ「夢」を見てくれることへの肯定と捉えており、3話の「せつ菜ちゃんは私たちに夢をくれた人だもんね」という発言からも、ふたりの「夢」は同じものであるという前提に立っています。

 しかしながら、侑は10話Aパート時点で自分の「夢」(せつ菜の言う「大好き」)を見つけていないと自覚しています。侑の「夢」が花開いたのは10話Bパート、同好会の活動を経て生まれた「スクールアイドルフェスティバルの実現」という夢は、他校のスクールアイドルを巻き込みながら大きく動き出します。侑の視線は、「夢を追いかけてる人を応援できたら、私も何かが始まる…そんな気がしたんだけどな」の「何か」、歩夢を応援した先にある「何か」に向き始めました。

 現在・過去・未来、ずっと一緒だと思っていた侑との認識のギャップに気づいたとき、歩夢が受けた衝撃は計り知れません。一緒に部活をしている「今」をふたりで追いかける「夢」と定義している歩夢にとって、侑の変化は受け入れがたいものに映ったはずです。侑の思い描く「夢」の中には歩夢の居場所もあるはずですが、それに気づけるほどの余裕は今の彼女には無さそうです。

 

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 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、方向性がバラバラな子たちがバラバラなまま各自の個性を生かすことのできる場所であり、「夢」のかたちが違うのはある意味当然です。このあたりメインテーマと絡めて解決してくれるんじゃないかな…と期待していますが、ゆうぽむの関係性には、「夢」のかたちの違いというだけでなく、自信のなさや独占欲という問題もかかわってくるので一筋縄ではいかなそうです。13話に持ち越しになってしまったら(なってほしくありませんが)次の1週間はそのあたりについて頭を悩ませることになりますかね。

 さて、今週も正座待機しましょう。

*1:もちろん移動時間は一緒だったでしょうね。御茶ノ水駿台だとしたらお台場から片道3-40分でしょうか。

*2:「自分に素直になりたい」は性格上なかなか実現しないものの…皮肉にも11話ラストで実現してしまうことになります。